遺志を継ぐ者
桂由美先生がお亡くなりになり
もうすぐ一年が経とうとしている。
亡くなる直前まで働いていて
まだまだやり残したことがあると
おっしゃっていた。
そんな桂先生が
「そうなのよ、河合君。
わたしがやりたいことをよく言ってくれたわ」
と、生前に褒めてくださったことを
今も鮮明に覚えている。
なのにだ。
「まったく遺志を継いでないぞ、俺」

「脳みそが、みそ汁になるほど考え抜け」
と、ソクラテスは言った。

「そうだ、先生に花束を渡し
熱い抱擁を交わしたあの日のことを思い出せ、俺」
となると普通に考えれば
先生を超えるウェディングドレスを
つくることこそ使命に違いない。

「バカヤロー、そんなデザインじゃ、先生が泣くぞ」

「アジアの時代ですから、こんなんどうでしょ・・・」
「河合君、結婚式で雑技団してどうするのよ。
おバカさんね〜」

「そうそう、これくらい斬新さがないと
世界に通用しないわよ」

先生の声が聞こえる。

世界を目指していた先生だから
となると次は出店する国を選ばないとな。

「やはりニューヨークか」

「いやいや、これからは中国でしょ!」

「歴史あるロンドンもありだな」

「なんのかんのいっても、イタ〜リア」

世界を転戦し、迷いに迷ったが結論を出さねばならない。

「迷わず行けよ、行けばわかさ、花の都パリ!」

決めたら行動あるのみ。
エッフェル塔が間近にそびえ立つ
最高の立地にアトリエを構えた。
それでも。
「足りない、何かが足りないぞ、俺」
パリのアトリエで思い悩んでいる時
「いつまで娘さんのMEYOUブランドに頼るおつもり」
先生の声が聞こえた。
「そうだ、世界のYUMI KATSURAを超えるには
TATSU KAWAIのブランドで勝負するしかないぜよ」

懐かしい写真を見て
天啓のごとくひらめいた。
「ふふふ、とうとうわかりましたよ桂先生」
「僕も先生のトレードマークのターバンを
頭に巻きますとも!」

これなら間違いなく

「三ツ星じゃ〜」
というボケはともかく

「これなら、先生と同じででしょ」

「おっ、サザンの桑田さんのマネはいいけど
ヘルメットは蒸れるからハゲるだろ」

ウケ狙いにもほどがある。
ここで毎年恒例の「カツじゃ〜」
ドレスの価値もガタ落ちだろ。

「あなたもしかして、この被り物の深い意味は
TATSU=龍だから、龍の創造力を駆使して
世界を制覇するということなのね」
「由美先生の志を継ぐ者として
これ以上のターバンはないと我ながら自負してます」
すべての体制は整った。
あとはビッグプロジェクトを発表するのみだ!
待ってろ世界。
日本の結婚式が斜陽産業などと
これからは決して言わせないぞ。
TATSU KAWAIが世界を席巻する日は近い。
まずは4月1日にプレス発表します!